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鵜飼山 遠妙寺

(うかいさん おんみょうじ)

遠妙寺は、山梨県笛吹市石和町市部に位置する日蓮宗の寺院で、山号を鵜飼山としています。この寺院は謡曲『鵜飼』の発祥地としても知られ、境内には鵜飼堂や供養塔が設けられています。遠妙寺は、古くから伝わる「鵜飼伝説」に基づいており、豊かな歴史と文化的背景を持っています。

遠妙寺の概要

遠妙寺は、日蓮宗に属し、山号を鵜飼山とする歴史的な寺院です。旧本山は身延山久遠寺であり、鏡師法縁(善学会)に属しています。この寺院の特徴の一つは、謡曲『鵜飼』発祥の地として知られていることです。『鵜飼』に関連する供養塔や堂が境内に設置されており、訪れる人々に古代の物語と結びついた寺の趣を伝えています。

鵜飼伝説と寺の成立

遠妙寺の由緒は、平家一族に関する伝説「鵜飼伝説」にあります。この伝説では、平家没落後の元暦年間、平家の一族であった平時忠が、石和川(現在の笛吹川)で鵜飼を行ったことから観音寺の僧に殺され、怨霊となったと伝えられています。その後、日蓮が文永6年(1269年)にこの地を訪れ、時忠の亡霊と遭遇しました。しかしこの時、怨霊を成仏させることはできませんでした。

それから5年後の文永11年(1274年)、日蓮は弟子の日郎と日向を伴い再びこの地を訪れ、一字一石の経石を使った施餓鬼供養を行い、ようやく時忠の怨霊を成仏させたと伝えられています。この出来事により、川施餓鬼の根本道場として遠妙寺が創建されたと言われています。

大黒天と笛吹川の伝説

遠妙寺には、笛吹川から出現したとされる福聚開運大黒天が安置されています。この大黒天は、慶長年間(1596年 - 1615年)に発見されたもので、開運をもたらす神として地域の信仰を集めています。

謡曲『鵜飼』について

遠妙寺に関連する伝説として、能の演目『鵜飼』が知られています。この演目は、榎並左衛門五郎が原曲を作成し、後に世阿弥が改作したとされています。『鵜飼』は、禁漁の石和川で漁を行ったために命を失った鵜使いの亡霊が、僧による供養によって成仏する物語です。

『鵜飼』のあらすじ

物語は、安房国清澄(現在の千葉県)から甲斐国石和(現在の山梨県)を訪れた僧が、地元の男に案内され、川辺の御堂で一夜を過ごすところから始まります。その夜、松明を持った鵜使いの老人が現れ、禁漁の罪によって命を奪われた自身の過去を語ります。老人は、懺悔のためにかつての鵜飼の技を僧に披露し、その面白さに浸りますが、やがて闇の中に姿を消します。

成仏のための供養

老人が去った後、僧たちは石に「法華経」の経文を記し、川に沈めて鵜使いの老人を供養します。その結果、地獄の鬼が現れ、鵜使いの霊が無事に成仏できたことを告げ、「法華経」の功徳のありがたさを讃えます。

登場人物と作品の背景

『鵜飼』には、鵜使いの老人、地獄の鬼、旅僧、同行の僧、そして地元の男が登場します。特に旅僧は、日蓮をモデルにしていると考えられています。物語の背景には、日蓮宗の教えや仏法の力が込められており、能の舞台を通して仏教の教義が広められていきました。

世阿弥と榎並左衛門五郎の作品

『鵜飼』の原作は摂津猿楽の榎並左衛門五郎が作り上げたものですが、世阿弥によって改作され、観阿弥や世阿弥の能楽の影響を受けています。作品には、当時の能楽の伝統と革新が反映されており、世阿弥がその後の能楽の発展に果たした役割が垣間見えます。

鵜飼の伝統と遠妙寺

遠妙寺の鵜飼伝説は、現在でも鵜飼に関連する行事として継承されています。笛吹川に近い遠妙寺の地には、鵜飼に関連する御堂や供養塔が存在し、地域の人々により川施餓鬼の行事が行われています。江戸時代には、平時忠の霊が供養されたという記録が残されており、遠妙寺の歴史と鵜飼の伝説が深く結びついています。

「徒歩鵜(かちう)」と現代の鵜飼

笛吹川では、舟を使用せずに鵜使いが川に直接入り込む「徒歩鵜(かちう)」と呼ばれる鵜飼が行われています。この伝統的な漁法は、遠妙寺の伝説を色濃く残しつつ、現代でも地域文化として受け継がれています。

仏教と鵜飼伝説の融合

『鵜飼』の物語は、漁師や猟師の殺生の業に焦点を当てながら、仏教による救済を描いています。この物語においては、「阿漕」や「善知鳥」といった他の作品と異なり、仏法の力による救済が強調されています。そのため、悲劇的な要素がありながらも、最終的には仏法の勝利が謳われる点が特徴です。

特別演出(小書)

『鵜飼』には、観世流や金剛流などの流派によって様々な特殊演出(小書)が存在します。これにより、能の舞台がさらに深みを増し、観客に感動を与える仕組みが取り入れられています。小書には、「早装束(無間)」「真如之月」「空之働」などがあり、それぞれの演出が独自の工夫を施されています。

遠妙寺を訪れる意義

遠妙寺は、単なる観光地ではなく、仏教の教えや伝説が息づく場所です。訪れることで、鵜飼伝説や仏教の救済の精神を肌で感じることができ、また歴史や文化の深さに触れることができます。境内には歴史的な遺構や仏像が並び、静寂な雰囲気の中で心を落ち着けることができます。

地域の人々との結びつき

遠妙寺は、地域の人々と深いつながりを持ちながら、古代からの伝統を守り続けています。そのため、地域文化を理解し、共感する場としても貴重な存在です。訪れる人々は、歴史や伝説に浸りながら、現代に生きる鵜飼の伝統と仏教文化を体感することができます。

Information

名称
鵜飼山 遠妙寺
(うかいさん おんみょうじ)

勝沼・石和温泉

山梨県