山梨県甲州市にある「慈雲寺」は、臨済宗妙心寺派に属する歴史ある寺院です。推定樹齢300年超のイトザクラや樋口一葉の文学碑で知られ、多くの観光客を惹きつけています。
慈雲寺は甲州市塩山中萩原に位置し、標高約570メートルの大菩薩嶺山麓に佇む寺院です。山号は「天龍山」、本尊は聖観世音菩薩を祀り、甲斐百八霊場の第10番札所に指定されています。
この寺院の特徴として、推定樹齢300年を超えるイトザクラの巨樹や樋口一葉の文学碑が挙げられます。また、地域住民にとって教育の場としても重要な役割を果たしてきました。
慈雲寺は南北朝時代の暦応年間(1338年 - 1342年)に、臨済宗の僧・夢窓疎石によって創建されたと伝えられています。夢窓疎石は甲斐国での修行を経て、浄居寺や恵林寺などの寺院を創建した人物でもあります。
江戸時代末期、当時の住職であった白巖和尚により、寺内に寺子屋が設けられました。この寺子屋では地域の子供たちに教育が施され、1887年(明治20年)には本堂内に学校が設立されました。その後、1907年(明治40年)には私立山梨里仁学校となり、戦後まで地域の教育に貢献しました。
この寺子屋で樋口一葉の父・則義が学び、一葉自身の文学の基盤となる家庭環境が形成されたと考えられます。
慈雲寺のイトザクラは、2005年(平成17年)に山梨県指定の天然記念物に指定されました。樹高15メートル、枝張りは東西20メートル、南北18メートルと非常に大きく、例年4月上旬に濃紅色の花を咲かせます。
慈雲寺を訪れる観光客の多くが目当てにするのが、推定樹齢320年のイトザクラです。この巨樹は1691年(元禄4年)の堂宇再建時に植えられたと伝えられ、本堂を覆うように美しい枝ぶりを見せます。
慈雲寺境内には、樋口一葉を偲ぶ「一葉女史文学碑」が1922年(大正11年)に建立されました。題額や撰文、書は著名な人物によるものであり、裏面には森鷗外や与謝野晶子など多くの文学者の名が刻まれています。
慈雲寺の桜が見ごろを迎える4月上旬には、多くの観光客が訪れるため駐車場や交通状況に注意してください。また、寺院の文化財や自然環境を守るため、マナーを守って観光をお楽しみください。
慈雲寺はその歴史的価値や自然美、文学的背景により、多くの人々を魅了する寺院です。特にイトザクラの開花時期は見逃せない美しい景観が広がります。山梨県を訪れる際にはぜひ足を運び、その魅力を体感してください。