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向嶽寺

(こうがくじ)

向嶽寺は、山梨県甲州市に位置する臨済宗向嶽寺派の大本山で、山号を「塩山(えんざん)」とします。本尊は釈迦如来を祀り、南北朝時代に創建された由緒ある禅寺です。非公開寺院であるため、建物内部や庭園は原則的に拝観が制限されています。

所在地と周辺の風景

向嶽寺は甲府盆地の東北部、塩山地区にある「塩の山」の南麓に佇んでいます。この山は古今和歌集にも詠まれた歴史的な場所で、地域の象徴的な存在です。寺へはJR中央線塩山駅から徒歩15分ほどで到着します。

参道と外観

寺の外門を通り抜けると、杉木立ちに囲まれた約100メートルの参道が続きます。参道の正面には「中門」と呼ばれる総門が建ち、室町時代の禅宗様四脚門の代表的遺構として重要文化財に指定されています。簡素ながら風格ある造りが特徴で、檜皮葺きの切妻屋根が採用されています。

この中門は通常閉じられており、参拝者は塩築地の東端にある通用門から境内へ入ります。境内には赤松や杉、檜の木々が生い茂り、静謐な雰囲気を醸し出しています。

歴史と創建の背景

向嶽寺の創建

向嶽寺は1378年(永和4年)、抜隊得勝(ばっすいとくしょう)によって創建されました。抜隊は相模国から甲斐へ移住を希望し、弟子の松嶺昌秀(しゅうれいしょうしゅう)の助けを受け、甲斐国守護・武田信成から寄進された塩ノ山に草庵を構えました。これが現在の向嶽寺の始まりです。

寺の名前にある「嶽」は富士山を指し、抜隊が霊夢を見たことに由来しています。また、向嶽寺は南朝方と関わりが深く、後亀山天皇の勅願寺として位置づけられました。

室町時代から江戸時代の発展と試練

室町時代、向嶽寺は甲斐国の守護武田氏から保護を受け、多くの塔頭や末寺を有しました。しかし、抗争や火災など幾多の試練にも見舞われています。江戸時代中期には末寺離れが相次ぎ、さらなる火災の被害を受けましたが、その都度復興を遂げています。

臨済宗向嶽寺派としての独立

1908年(明治41年)、向嶽寺は南禅寺派から独立し、臨済宗向嶽寺派の大本山となりました。その後も度重なる火災に見舞われ、1926年(大正15年)の火災では方丈と庫裏を焼失しましたが、1967年(昭和42年)に庫裏が再建され、寺院としての姿を取り戻しました。

文化財

向嶽寺には、国宝や重要文化財に指定された数多くの文化財が収蔵されています。 その中には、歴史的価値が高く、美術的にも優れた作品が含まれており、訪れる人々に深い感動を与えます。

国宝:絹本著色達磨図

絹本著色達磨図は、鎌倉時代(13世紀)に描かれた日本最古級の達磨像です。 現在は東京国立博物館に寄託されています。この作品は、宋からもたらされた水墨画の技法を用い、 達磨が朱衣をまとい岩の上で座禅を組む姿を描いています。 鋭い目や豊かな髭など異国風の風貌が精緻に表現されており、日本の水墨画史の幕開けを象徴する作品とされています。

重要文化財:中門

中門は室町中期に建てられた四脚門で、禅宗様式が採用されています。 この門は、向嶽寺に現存する中世建築として唯一のものであり、寺の歴史を物語る貴重な遺構です。 海老虹梁(えびこうりょう)という特徴的な装飾が施されており、当時の建築技術の高さを示しています。

重要文化財:絹本著色三光国師像

三光国師(孤峰覚明)の頂相を描いたこの作品は、禅僧像として高い美術的価値を持っています。 法被をかけた椅子に座禅を組む姿が描かれており、中国風の肖像画の影響を受けた一例として知られています。

重要文化財:大円禅師像

大円禅師(抜隊得勝)を描いた頂相で、三光国師像と同様に座禅を組む姿が表現されています。 この像は、抜隊の7回忌にあたる明和4年(1393年)に作成されたもので、細部まで丁寧に描かれています。

山梨県指定文化財

築地塀

向嶽寺の築地塀は、寺院の境界を囲む土塀として昭和36年に指定されました。 落ち着いた風情が境内全体の静寂な雰囲気を引き立てています。

仏涅槃図

室町時代に制作された仏涅槃図は、釈迦の入滅を描いた作品です。 その中には慟哭する老女が描かれるなど、独自の要素が見られ、宗教美術として高く評価されています。

銅鐘

中世に鋳造された梵鐘は、向嶽寺の歴史と関わり深い貴重な文化財です。 武田氏一族の寄進により製作され、鐘の音色は静寂な境内に響き渡ります。

向嶽寺の歴史資料

向嶽寺には、歴史を知るうえで欠かせない文書や版木が数多く保存されています。 特に、寺の歴代住職が記した『塩山向岳禅庵小年代記』は、甲斐国中世史の重要な史料として知られています

国指定名勝の庭園

向嶽寺の庭園は、平成6年(1994年)に国の名勝に指定されました。方丈裏手に広がるこの庭園は、発掘調査と修復工事を経て、かつての姿をほぼ完全に再現しています。庭園の中心には高さ2メートルを超える「三尊石」があり、滝石組や池泉などが調和した美しい景観が広がっています。

この庭園は、山梨県に残る古庭園の典型であると同時に、伝統的日本庭園の歴史を伝える貴重な資料でもあります。

訪れる際の注意点

向嶽寺は非公開寺院であるため、内部の拝観は通常できません。ただし、庭園や外観からもその美しさと歴史を感じ取ることができます。訪れる際には事前に情報を確認し、静寂な環境を保つよう心掛けてください。

Information

名称
向嶽寺
(こうがくじ)

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