大菩薩峠は山梨県甲州市塩山上萩原と北都留郡小菅村の境界に位置する峠です。標高は1,897メートルで、大菩薩嶺(標高2,057メートル)の南方約2キロメートルに位置する尾根の鞍部にあたります。
「大菩薩」という名称の由来には複数の説があり、『甲斐国志』では源義光が峠越えの際に八幡大菩薩に祈念した説や、上萩原の神部神社に由来する説が紹介されています。また、峠に僧侶が菩薩像を埋めたことから名づけられたとも言われ、水が湧き出て多摩川と笛吹川を形成したという伝説もあります。
中里介山の未完の大河小説『大菩薩峠』によって広く知られるようになり、峠の自然や歴史が作品に影響を与えたとも言われています。現在は紅葉の名所としても有名で、特に10月中旬から下旬にかけて見頃を迎えます。
大菩薩峠は、古くから修験道の山岳修業の場として知られていました。江戸時代までは、武蔵国と甲斐国を結ぶ甲州道中の裏街道「青梅街道」の重要な峠として利用されていました。この街道は峠を越えると丹波山村を通る丹波山通と小菅村を通る小菅道に分かれ、奥多摩町で再び合流する仕組みでした。
江戸時代において、大菩薩峠は青梅街道の最大の難所とされました。街道は物流にも利用され、両村からの米や塩、木材などが運ばれていました。しかし、1878年(明治11年)、道路改修により柳沢峠が新たなルートとなり、大菩薩峠は交通の要所としての役割を柳沢峠に譲ることとなりました。
大菩薩峠へ登る主なルートは以下の通りです:
特に人気があるのは上日川峠からのコースで、車両で福ちゃん荘までアクセス可能です。ただし、車両通行はタクシーまたは宿泊者の利用に限られます。
秋には峠周辺が紅葉で彩られ、10月中旬から下旬にかけて見頃を迎えます。また、峠からは甲府盆地の向こうにそびえる南アルプスや、南方に広がる富士山の壮大な眺望を楽しむことができます。
毎年8月中旬、甲州市では「大菩薩峠登山競走大会」が開催され、多くの登山者が訪れます。このイベントは地域の魅力を広く発信する機会にもなっています。
巣鴨中学校・高等学校では、心身の鍛錬を目的に「大菩薩峠越え強歩大会」を毎年5月に実施しています。全校生徒が深夜2時に出発し、教員や卒業生が安全確保のため見守る中で挑戦する伝統的な行事です。
1969年11月、大菩薩峠の山小屋「福ちゃん荘」で新左翼赤軍派が軍事訓練を行っていたところ、警視庁により摘発され、53人が逮捕されました。この事件は「大菩薩峠事件」として知られています。
大菩薩峠は、その歴史的背景と自然美により、多くの人々を惹きつけています。ハイキングや紅葉観賞、教育活動など、訪れる目的はさまざまですが、いずれもこの地の魅力を堪能できるものばかりです。ぜひ一度、足を運んでその魅力を直接感じてみてはいかがでしょうか。